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2005年12月25日 サンタクロースのスコットとトナカイのティム

「スコット君、君は一体いつになったら一人前のサンタになれるんだね」

毎日毎日これの繰り返しだ。部長の小言。責任は僕にあるのだから納得をしなくてはいけない。そりゃ僕だって怒られるためにサンタクロースになったわけじゃないけど、毎日がこれじゃあそう考えるようになっても全然不思議じゃない。

僕が自分の机に戻って地図の確認をしていると、オフィスの扉が開き同期のフィッツが帰ってきた。彼は一目散に部長の前まで歩いていくと、紙の束を机の前に置いて部屋中に響く声で言う。
「部長、新たに15件契約をとってきました。これが契約書です」
さっきまでとは別人のような高い声を出して部長は
「おおフィッツ君、よくやった。15件か。おい、みんな聞け。フィッツ君が今新たに15件の契約をものにして帰ってきてくれた。みんなもこれを見習ってがんばってもらいたい」
フィッツは誇らしさを満面に浮かべ、僕の隣の席に着き、僕の肩を叩く。
「なんだよなんだよスコット。またプレゼント配布地図の確認か?いい加減そんなバイトでも出来る仕事から卒業しろよ。俺みたいにバンバン契約を取ってきて、上を目指せよ、ハハハ」
「ああ、わかってるよ」僕は彼の方も見ずにそう答える。

サンタクロースの仕事は二つに別れる。現場仕事と、営業管理仕事だ。
現場仕事とは、パートナーであるトナカイと一緒にソリに乗って地上に降り立ち子供達にプレゼントを配る仕事のことだ。あらかじめ会社から与えられる地図の通りに家々を回り、子供達にプレゼントを配る。ただそれだけの仕事。主にアルバイトがやる仕事だ。そして僕のように落ちこぼれの仕事でもある。

僕は営業の成績が全然上がらず毎年毎年この現場をやらされている。
新しく回る家の物品配布許可書の契約が取れないのだ。そりゃ僕だって毎日営業活動はしているけれども、大抵取り付く島もなく断られる。
「誰だかわからない人が家に入ってきて物を置いていくなんて、ちょっとね」
すぐこれだ。サンタクロースの幻想なんてもうどこにも見て取れない。
いや、これが言い訳ということはわかっている。同期のフィッツだってこの条件で契約をとってくるのだ。多少人脈を持っているとしても、やはり彼は弁舌が立ち、僕は口下手、その差だろう。

今年もクリスマスが訪れた。
僕はプレゼント配布用地図と、さまざまなプレゼントが入れられた服を持って、パートナーであるトナカイのティムの所へと向かう。
「やあティム。また今年もよろしく頼むよ」
「スコット、君はいつまでたっても現場なんだな。まぁ、俺ももうあんた以外のヤツを乗せてソリを引く気はなくなっちまったけどな」
「じゃあお前は今年で引退ってわけだ」
「その言葉を聞くと、ああ今年もクリスマスが来たんだなって実感するよ」
僕らは笑いあい、そしてソリに袋を乗せ、一番初めの子供の待つ家へ向かった。
暗く日の落ちた夜の空を翔けて。

サンタクロースと言われて君が想像する姿を描いてみて欲しい。
紅白の服に白いひげ。ポコッと飛び出た腹と人当たりのよさそうな笑顔。
これは僕の勤めるサンタクロース社の制服だ。現場人(アルバイト、もしくは僕のように営業の成績が上がらない落ちこぼれ社員)は、みなこの格好をしてプレゼントを配らなくてはいけない。会社から至急された変装セットともいうべき制服を着て、プレゼントを配る。基本スタンスとしてサンタクロースは子供に目撃されてはいけないことになっているが、万が一見られたときにサンタクロースがそれぞれ違う格好をしていては子供の夢を壊すということで、僕の会社の何代か前の社長が考え出したアイデアだ。
結果としてこれが大ヒットし、今サンタクロースといえば僕の会社の制服を思い浮かべる人が多いし、ほとんどサンタ業界を一社独占で行なっている理由でもある。

「あと何件残っているんだいスコット。今年はまわる家が多いな」
「ああ後7件だね。ついに部長も僕らが現場のエキスパートだってことに気付いたらしい。去年の倍もある。給料は同じだってのに、太っ腹だね」
トナカイのティムは目を閉じてゆっくりと首を振り、あんたはいったいなんでサンタクロースになりたいと思ったんだい、と聞いてきた。
僕らはすっきりと晴れ渡った空を翔けていた。しかし地上には昨日までずっと降り続いていた雪が、まるで地球が生まれてからずっと俺はここにいるんだぞと主張しているかのように積もっていた。しかしもちろん彼らは春の訪れとともに消えていく。だけど僕にはそれが全然信じられなかった。
「忘れちゃったよ。そんな昔のことはさ」

プレゼントを配ってまわれることが一人前のサンタクロース、ではないことを知ったのは入社してすぐのことだ。
「あんなのはバイトがやってりゃいいんだ。正社員として入社したからには営業で成績を上げて、管理職について、人脈を築き、そっからまたバカデカイ契約を取る。歴代優秀サンタクロースとして名前が残せるのはそういうやつらだ。現場のサンタなんて使い捨てられる。仕事はきついし、低賃金、やってられるか。俺はそんな風にはなりたくない」
同期で入社したフィッツがこう言っていたのは一体どれくらい前のことだったか。僕はその言葉に共感はしたけれど、彼と僕では決定的に営業能力に差があった。結局彼はわが社始まって以来の優秀なサンタとなり、僕は会社始まって以来のダメサンタになったってわけだ。一応正社員ということでバイトの現場人よりは給料が高いから、会社からみれば余計にたちが悪いっていうのもわかる。

ちくしょう、子供に夢を与えるのがサンタクロースの役目なんじゃないのか?
そりゃ会社のトップは配布のプレゼントを調達し、契約を取ってくることはしている。それが大切なのはわかる。でもだからって現場で、子供達と直に触れているサンタクロースは落ちこぼれだなんて、そんなことがあるのか。優劣なんてそこにあるのか。ただ仕事の違いじゃないか。奴らは契約は取れるかもしれないけど、じゃあ寒空の中をソリに乗って家々を回ることができるのか。
これが負け惜しみだってことはわかっている。現実はわかっている。

「次の男の子で最後だよティム。悪いな、俺なんかのパートナーになったばっかりに忙しくてさ、貧乏くじ引いたなお前」
「まったくだ。大ハズレも大ハズレだよ。あんたなんかのソリを引いているから、俺はこれまでやめたかったこの仕事も続けちまってるんだよ。あーあー、あんたのパートナーなんて引き受けなけりゃあ、俺はとっくにサンタのソリ引きなんてやめて、どっかで楽な仕事見つけて遊んでたのにな。寒空の中を飛び回るこんな仕事、大嫌いだってのに」

最後の子供の家の上でティムはソリを止める。僕は地図を見てこの家で間違いがないかを確認した後、袋の中に残っている最後の箱を手に、ソリを降りて屋根に立ち、煙突の前まで行った。
「煙突が残っているなんて、めずらしい家だなスコット」
「ああ、ここはうちの会社が創設以来契約している家らしいよ。なんでも前の担当者が今年の始めに仕事辞めちまって、そのしわ寄せが僕の所にきたんだ。営業崩れが担当していた契約物件には、営業崩れをあてがっとけっていう、会社の方針だろうね」 僕は煙突の中に飛び込む。中はもちろんキレイに掃除されているし、暖炉に火が灯っていることもない。クリスマスの夜何時から何時までにうかがいますという契約がなされているからだ。
僕は一つの箱を持ったまま、指定された子供部屋の前までくると、ドアを静かに少しだけ開け、中の子供が眠っていることを確認する。どこの子供も変わらない、穏やかに、ゆったりと、幸せそうな笑顔だ。枕元に小さな靴下が置かれていた。
部屋の中に入り、靴下の中にプレゼントを入れる。その時に男の子が寝返りを打った。

僕は一瞬起こしてしまったかと思ったが、彼はまたすやすやと寝息を立て始める。寝返りを打ったときにずれてしまった布団を、肩までかけなおしてあげると、僕はまた静かにその部屋を立ち去る。まるでなにもなかったかのように。サンタクロースなんて実際は来ていないかのように。

ノブに手をかけたとき、背後で衣擦れの音がした。
僕が後ろを見ると子供が大きな目をぱっちりと広げ、僕と目が合う。
「・・・サンタ、さん?」
やれやれ、子供に見られてしまった。こんなヘマをやっちまうから僕は現場監督にだってなれやしないんだ。詰めが甘い。
子供が布団から起き上がろうとする。僕はベッドのところまで行き彼と向き合い、彼の両肩に僕の両手を乗せ、さぁ、布団に入ってと囁くように言った。
「・・・サンタさん?」
彼は質問を繰り返した。僕はニッコリと笑顔を浮かべ、優しく話しかける。
「そうだよ。僕がサンタクロースだ。さぁ、布団に入って。今日は特別寒いからね。僕がサンタなのは君にバレてしまったようだ。さぁもう寝よう。君は夢を見ているんだ。朝になればすっかり忘れてしまっているよ。お母さんの作る美味しい朝食を食べて、お父さんに目一杯遊んでもらうんだね。さぁ、もう寝ようか」
「これは夢なの?」
「さぁもう寝よう」
「うん」
彼は僕を見た。でも実際に僕を見たわけじゃない。僕が着ているサンタクロースのユニフォームを見たのだ。彼は朝起きたら今の出来事を忘れているかもしれない。もし覚えていたとしたら彼は言うだろう。サンタさんを見た。赤と白の服を着て、腹が出ていて、ひげを生やしていたと。人当たりの良い笑顔をしていた、と。それはサンタクロースであって僕じゃない。僕だけれど、僕じゃあない。僕の記憶の中に彼の寝顔はある。しかし彼の記憶の中に僕は一度も出てこない。

ティムは空を翔ける。雪がちらちらと舞いはじめていた。僕はソリの上からティムに向かって話しかける。
「もうサンタクロースのトナカイなんてお前はイヤなんだろ。僕は落ちこぼれだから毎年毎年仕事は増えていくぜ。パートナーはお前からやめない限り、ずっとお前だ。もっともっときつくなる」
「最悪だ。もうサンタのソリ引きは疲れちまった。二度とやりたくない」
「僕もそうだ。二度とこんなきつい仕事はゴメンだね」
「だけど、来年になるとまた不思議とあんたを乗っけてソリを引きたくなる」
「奇遇だね。僕もなぜかお前の引くソリに乗ってきつい仕事をしたくなる」

僕らはそれからずっと黙って、帰路に着いた。
雪が花びらのように舞う夜の空を翔けて。



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